2026年9月5日土曜日

RI1FJL フランツヨーゼフ諸島 雑感

14MHzのFT8は入った、FT4は消えた

今回のRI1FJLは、当局にとって「バンドニュー+モードニュー」をひとつ稼いだ運用だった。
14MHz FT8でログに入り、同じ14MHzのFT4はNIL(Not In Log)。フランツヨーゼフ諸島(FJL)はすでにCWでコンファーム済みなので、ATNOの緊張感はない。それでも10年ぶりに開いた扉である。そして当局の本命は、これから出てくるRI1FJZのほうだ。

この記事のポイント3つ

  1. FT8は入り、FT4は消えた。デジタルでも「返ってきた=ログに入った」ではない。
  2. FJLは近いのに遠い。松戸から約5,940km・方位348度。ハワイより近いのに、経路がまるごとオーロラ帯の下を通る。
  3. 次はRI1FJZ。SSBと各バンドのFT8を伸ばすチャンス。ただし悪天候で出発が遅れている。

1. 当局の戦績 ── 14MHzで明暗が分かれた

今回の当局の結果を先に並べておく。

バンドモードコールサイン結果
7MHzCW過去のFJL局交信済・コンファーム
21MHzCW過去のFJL局交信済・コンファーム
28MHzCW過去のFJL局交信済・コンファーム
14MHzFT8RI1FJLQSO成立
14MHzFT4RI1FJLNIL(Not In Log)

設備はいつもの布陣である。FTDX-10に、10階ベランダの釣竿アンテナ+SG-230スマートチューナー。大砲を持っているわけではない。北向きのパスに、ATUで無理やり整合させた1本の竿で挑んだ、というのが実態だ。

FT8のほうは、こちらのレポートに対してRR73が返り、画面上はきれいに完結した。問題はFT4である。手応えとしては同じように「取ってもらえた」感触だったのに、ログサーチをかけると影も形もない。

これはデジタルモードにありがちな話だ。FT4は速い。速いということは、1回のやりとりに与えられた時間が短く、取りこぼしたときの復旧余地も小さいということでもある。7.5秒のシーケンスは、ホームの停車時間が極端に短い特急のようなもので、乗ったつもりでもドアが閉まっていた、ということが起こる。相手が受信できなかったのか、混信で潰れたのか、あるいは向こうのログ側で落ちたのか。こちらからは判別できない。

NILの扱いについて
RI1FJLチームは、現地のインターネット回線が極端に遅く(Starlinkが使えない環境だ)、ログのアップロードも滞りがちだった。チーム自身、ログにないという問い合わせは帰国後にまとめて確認すると表明している。慌ててOQRSを叩かず、最終ログが出そろってからもう一度サーチをかけるのが正解だろう。当局もそうするつもりだ。

2. フランツヨーゼフ諸島とは何者か ── 「見つけたのに黙っていた島」


MAP: FJL to JA 



PHTO: Franz Josef Land (Heiss Island)

せっかくなので、この島の素性を整理しておきたい。調べてみると、なかなか人間くさい歴史だった。

面白いのは、最初に見つけた人間が黙っていたことだ。1865年、ノルウェーのアザラシ猟船スピッツベルゲン号がスヴァールバル北東で陸地を発見した。ところが猟場を同業者に知られたくないので、公表しなかった。よく釣れるポイントを人に教えない釣り人と、まったく同じ理屈である。

公式の発見者は別にいる。1872〜74年のオーストリア=ハンガリー北極探検隊(ユリウス・パイエル指揮)が公表し、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世にちなんで命名した。その後、1898年のウェルマン隊、翌年のステラ・ポラーレ号、1901〜05年のジーグラー極地探検隊と続く。ロシアは1914年に領有を主張し、ソ連が1926年4月15日に正式併合してアルハンゲリスク州に組み入れた。

1932年からはチーハヤ湾(フッカー島)やルドルフ島にソ連の気象観測所が置かれる。ちなみに第二次大戦中には、アレクサンドラ島にドイツ軍の気象基地が誰にも気づかれずに存在していた。 

現在の姿は、約192島・面積16,134km²、恒久的な住民はおらず軍と観測隊のみ。ルドルフ島のフリーゲリー岬は東半球最北端で、北極点まで約900kmしかない。1994年から自然保護区、2012年にロシア北極国立公園の一部となった。今回RI1FJLが運用したハイス島のクレンケリ観測所は、1957/58年の国際地球観測年に設立され、2001年に一度放棄、2004年に小規模・近代的な形で再開されたものだ。世界最北の郵便局があるのもここである。

3. 過去のDXペディション ── 「一人の気象台長」が支えた20年

FJLのオンエア史は、大規模ペディの歴史ではない。孤独な常駐局の歴史である。

時期コールサイン/運用者内容
ソ連末期〜1990年代4K2プレフィックス1993年には映画撮影隊に同行したOE1RMSが4K2/OE1RMSで運用
1990年代R1FJZ(Sergei Tsybizov)1995年にSWLレポートが確認されている程度の散発運用
2006〜2008R1FJT(Eugeny Chepur, UA4RX)気象観測班長として常駐
2010〜2013RI1FJ(同上)R1FJT時代と合わせ約80,000交信。DXCCチャレンジ用のバンドエンティティを1,000以上供給し、すべてLoTW対応
2013〜14シーズン(空白)Eugenyが撤収。後任が来ないことがほぼ確実になり、FJLは再びレアエンティティ化
2015〜2016RI1FJ(復帰)2015年夏に砕氷船で入島するも機材トラブルで2016年6月末までオンエアできず。コンディションも劣悪で、取りきれない局が続出
2026年8〜9月RI1FJL(RUDXTチーム)ハイス島(EU-019)。6名体制、CW/SSB/デジタル
2026年9月(予定)RI1FJZ(別チーム)アレクサンドラ島。最大7台のリグ、EME・LEO・QO-100も予定

つまり2016年から2026年まで、事実上10年の空白があった。そこへ今年、別々のチームによるペディが2件も重なった。DX界では10年に一度の異常事態である。

RI1FJLの現地事情も相当きつい。RUDXTが2年がかりで準備し、予算は約8万ドル。小さなチームには重すぎる額で、コミュニティの寄付に頼った。ムルマンスクからヨット「マリア」で出港し、5〜6mの波と19ノットの北風で漂流、FT-891が1台故障。8月21日には濃霧で上陸が夜まで遅れ、約1,000kgの機材を陸揚げしている。パイルの向こう側に、そういう2年間があると思うと、返ってきたRR73の重みが少し変わる。

4. 交信難度 ── JAから見た評価は★★★★☆

当局の評価は★★★★☆(4)。ただし今回のようにペディが出ている期間に限れば★★★(3)まで下がる。ブーベ(★5)ほどではないが、常時オンエアが望めないという点で恒常的な難関だ。難しさの中身は3つある。

① 経路がオーロラ帯を直撃する

松戸からハイス島まで約5,940km、方位348度。距離だけならハワイより近い「ご近所」の部類である。ところが真北へ抜ける極回りパスは磁気嵐にめっぽう弱い。高速道路自体は短いのに、峠が冬季通行止めになりやすいと考えるとイメージが近い。K指数が上がった日は、信号が「弱くなる」のではなく「消える」。今回も現地から、強風で信号が歪んで受信が難しいという報告が出ていた。

② ヨーロッパという壁

FJLからEUまでは目と鼻の先で、パイルの厚みが桁違いだ。運用者自身が、パイルが巨大なのにオペレーターの人数が足りず全バンド・全モードには出られない、と述べている。JAはEUが薄くなる時間帯を狙うしかない。今回14MHzのFT8で拾ってもらえたのも、その隙間だった。

③ 運用機会そのものが希少

機材も人も現地に置いておけない。年表のとおり、10年オンエアがない期間が普通に発生する。だから出ているうちに、出られるバンドで、出られるモードで取る。これに尽きる。

5. 次はRI1FJZ ── SSBと各バンドFT8を伸ばしたい

ここからが本題かもしれない。もう一組、RI1FJZがアレクサンドラ島から出る。RA1ZZ、R9LR、RA9USU、R9LM、RW6MDら5名の運用で、最大7台のリグ(CW/SSB×2、デジタル×5)を予定。さらにEME、LEO衛星、QO-100まで視野に入れているという意欲的な計画だ。R9LRはFJL再訪、RA1ZZに至ってはこの遠征のために仕事を辞めたと伝えられている。本気度が違う。

ひとつ注意点がある。当初9月9日〜25日とされていた運用だが、現地の悪天候で出発が9月7日ごろまで遅れているという情報が出ている。ムルマンスクから島まで航海に5日前後かかるので、オンエア開始は当初予定より後ろにずれる可能性がある。DX-Worldなどの情報をこまめに見ておきたい。

当局の作戦メモ

  • SSBを最優先。CWとFT8は押さえたので、次はフォーンで一枚。オペレーター数が多く、SSB専用リグを2台立てる編成は当局にとって追い風だ
  • FT8はバンドを広げる。14MHzは確保済み。18MHz・21MHz・10MHzあたりを狙う。マルチストリーム運用はパイルに強い
  • FT4は無理に追わない。今回のNILで懲りた。取りこぼしたときのリカバリーが効かない
  • 時間帯はEUが薄くなる瞬間。JAの夕方〜夜のハイバンド、深夜〜早朝のローバンド
  • 50W+釣竿でも諦めない。チーム側が遠方局・低電力局を優先して拾う方針を掲げているのはありがたい

QSLはClub LogのOQRS、LoTWは帰宅後数日以内にアップ予定とのこと。当局は例によって、まず最終ログの確定を待つ。

おわりに

10年沈黙していたエンティティが、ひと月のうちに二度も開く。こういう年は、そう何度も来ない。CWで押さえた7/21/28MHzに、今回FT8で14MHzが加わった。次はSSBだ。

FT4のNILは悔しいが、あれはあれで記録である。取れなかった1局を覚えているから、次に取れた1局が嬉しい。DXとはそういう遊びだと思う。

皆さんもRI1FJZ、ぜひ狙ってみてほしい。

73 de JI1ALP

2026年9月4日金曜日

ハイモンド縦ぶれ電鍵を打ち比べる ― HK-1Z・HK-808・HK-802は何が違うのか

当局の結論。この3台に「どれが一番いい電鍵か」という答えはない。あるのは方向性の違いだけである。

同じハイモンドの縦ぶれ電鍵でありながら、HK-1Z、HK-808、HK-802は打鍵感の設計思想がまるで違う。特にHK-1ZとHK-802は、優劣ではなく「好み」と「打ち方」で評価が真っ二つに分かれるタイプだと思う。

前回、当局が入手した古いハイモンドの大理石電鍵 HK-1Z について、その歴史と設計思想を書いた。φ6mmという巨大な銀接点、大電流キーイングを前提とした構造、大理石と黒色下部ベースの組み合わせ ―― あくまで「もの」としての話だった。

今回はその続きである。あの設計は、実際に指へどう返ってくるのか。

手元のHK-808、HK-802と並べて打ち比べてみたら、これが想像以上に面白かった。以下、当局の実感とWeb上の各種レビュー・A1 CLUBの資料を突き合わせながら整理してみる。

今回の3つのポイント

  1. HK-1Zは「コツッ」なのに柔らかい。大径接点が生む独特の粘りがあり、しかも個体差が大きい。
  2. HK-808は「ドライで軽快」。接点は明確なのにレバーは滑らか ―― バネ圧の重さと機構の軽さは別物である。
  3. HK-802は別系統。スウェーデン式に近い構造で、ほとんど力を要さず流れるように打てる。ただし独特の「ビーン」がある。












HK-1Z












HK-808












HK-802




3機種の打鍵感を項目別に整理してみた

まずは一覧で ―― 3機種・打鍵感比較

項目HK-1ZHK-808HK-802
打鍵感の一言柔らかく、粘りがあるドライで軽快滑らかでソフト
キーを押した感触コトッ、コツッと柔らかく受け止めるコツコツと明確トトトト…と流れる感じ
接点の感触大型接点特有の「粘り」接点のON/OFFが明瞭衝撃が少なく柔らかい
戻り穏やか。調整次第ではかなり良い速く、キレが良い滑らかで自然
反動少なめ比較的明確非常に少ない
硬さ柔らかめやや硬質~軽快ソフト
操作音コトコト系コツコツ・カチカチ系静かめ+「ビーン」という微振動あり
高速打鍵○~◎
長時間運用○~◎
反動式との相性非常に良いとの評価あり相性良好打ち方がやや異なる
精密感○~◎
個性非常に強い万能型独特
向いている人打鍵そのものを味わいたいCWマン癖なく高速に打ちたい人軽い力で長時間打ちたい人

1. HK-1Z ――「コツッ」なのに柔らかい、不思議な電鍵

今回いちばん興味深かったのがHK-1Zだった。

当局の感覚でも、大径の接点は「コツコツと決まる」。ところが同時に、HK-808にはない柔らかさを持っている。この二つが同居しているのが不思議なのだ。

Web上の各種レビューでも、「接点が広いので、打った時に粘りがある」「すごく打ち心地がよく、柔らかい」といった表現が見られる。どうやら当局だけの錯覚ではないらしい。

普通の縦ぶれ電鍵の感触を言葉にすると、

押す → 接点に当たる → カツンと跳ね返される

という流れになる。ところがHK-1Zは、

押す → コトッと受け止められる → ゆったり戻る

に近い。「当たる」ではなく「受け止められる」。ここがこの電鍵の核心だと思う。

A1 CLUBのアンケートにも「接点が大きいので手首への衝撃がソフト」という証言がある。φ6mmという大接点は、大電流キーイングのための設計でありながら、結果として打鍵衝撃を分散するクッションにもなっていたわけだ。前回書いた「設計思想」が、そのまま指先の感触として返ってくる。これは正直、書いていて気持ちがいい。

同じHK-1Zでも、打ち味が違う

さらに面白いのは、HK-1Zを5台所有している方が「全部打ち味が違う」とWEBで書いていることだ。コツコツ、コトコト、カチカチ ―― 同じ型番なのに個体ごとに感触が異なるという。

これは古い電鍵ならではの魅力だと思う。HK-1Zという一つの打鍵感が存在するのではなく、個体そのものを味わう電鍵なのかもしれない。

中古で手に入れるとき、これは怖くもあり、楽しくもある。当局の一台がどんな性格なのかは、結局のところ打ってみるまで分からなかった。

2. HK-808 ――「ドライで軽い」ハイモンドの優等生

HK-808は、当局の感覚では「ドライで軽い感じ」で、非常に打ちやすい。

一方、Web上のユーザーは「固い感触だが精密感がある」と表現している。一見すると当局の印象と矛盾しているようだが、たぶんこの食い違いこそが重要だ。

バネ圧そのものの重さと、機構の動きの軽さは別物なのである。

分かりやすく言えば、自転車のブレーキレバーを想像してほしい。握り込む力が要るブレーキでも、レバーの軸がきちんと整備されていればスッと動く。逆に軽いバネでも軸が渋ければゴリゴリする。「重さ」と「滑らかさ」は別々に効いてくる。

HK-808はボールベアリング軸受けを採用し、滑らかな打鍵を狙った構造になっている。大理石ベースも重く、連続打鍵しても本体が動きにくい。だから、

指に感じる接点はコツコツ明確。しかしレバーそのものはスッと動く。

という一見矛盾した感触が成立する。CQオームに残るユーザーレビューでも「コツコツ感」「なかなかいい感触」という評価が見られる。

面白い弱点もある

HK-808では打鍵後に残響を感じる場合があり、人によっては違和感になるという指摘がある。またノブ位置が比較的高く、長時間の操作では手首への負担を感じる可能性も指摘されている。

ただし当局自身は、残響はあまり感じない。このあたりも個体差か、設置環境か、あるいは打ち方の違いなのだろう。

まとめると、HK-808は「切れ味」を楽しむ電鍵である。HK-1Zの「コトッ」と受け止める感覚とは、はっきり対照的だ。

3. HK-802 ―― ほかの2台とは設計思想そのものが違う

HK-802だけは、同じハイモンドでも別系統と考えた方がよさそうだ。

スウェーデンの「Swedish Pump Key」によく似た構造で、接点が支点より後ろ側に配置される独特の方式を採っている。A1 CLUBの資料でも「ソフトで非常に打ちやすい」と評価されている。












この構造だと、普通の縦ぶれのように接点が「ガツン」と指へ返ってきにくい。てこの支点の位置が違うのだから、力の返り方が変わるのは当然といえば当然である。

当局の感覚としてはこうだ。

  • 動きが非常に滑らか
  • 打鍵がほとんど力を必要としない
  • 長時間でも疲れにくい
  • 高速送信しやすい

ただし「ビーン」がある

HK-802には独特の「ビーン」という振動がある。鋼線のバネなどが共振し、電鍵自身が打鍵衝撃を吸収しているように感じられる。

打鍵後の残響は、HK-808よりはるかに大きい。これを嫌う人もいるし、「これこそ802だ」と感じる人もいる。まさに打鍵感の世界である。

当局は後者に近い。あの余韻を含めて802という電鍵なのだと思っている。




3台を擬音で比べてみる

結局、打鍵感というのは言葉にしづらい。ならば擬音でいくのが早い。

HK-1Zコトッ、コトッ、コトッ
HK-808コツッ、コツッ、コツッ
HK-802トトトトト……

並べてみると、性格の違いがはっきりする。

  • HK-1Zは「接点を感じながら打つ」
  • HK-808は「レバーを正確に操る」
  • HK-802は「滑らかに流す」

同じ縦ぶれ電鍵で、同じメーカーで、やっていることは「接点をON/OFFする」だけなのに、ここまで違う。面白いものだと思う。

まとめ ―― 優劣ではなく、方向性

冒頭に書いたとおり、この3台に順位はつけられない。

打鍵そのものを味わいたいならHK-1Z。癖なく正確に高速で打ちたいならHK-808。軽い力で長時間流したいならHK-802。用途と好みで選ぶべきものだ。

そしてHK-1Zについては、もう一つ付け加えておきたい。個体差があるということは、「自分の一台」を見つける楽しみがあるということでもある。同じ型番の電鍵を5台並べて打ち味を比べる ―― 一見すると酔狂だが、その気持ちはよく分かる。

当局のHK-1Zは、コトッと静かに受け止めてくれるタイプだった。前回の記事で調べた大接点の設計思想が、そのまま指先に返ってくる。古い電鍵を手に入れるというのは、こういうことなのだと思う。

参考:A1 CLUB 各種資料・アンケート、CQオーム掲載のユーザーレビュー、Web上の電鍵レビュー各種。打鍵感はきわめて主観的なもので、個体差・調整状態・設置環境によっても変わる。本記事はあくまで当局の手元の3台についての印象である。

73 de JI1ALP
Member of A1CLUB 

2026年8月30日日曜日

【ハムフェア2026】IC-7110を見てきた

【ハムフェア2026】IC-7110を見てきた ― FTX-1 optima-50と並べると「思想の違い」が見えてくる

昨日、ハムフェア2026に行ってきた。例年より人が多い。特に海外からのハムが目立っていて、通路のあちこちで英語が聞こえてくる。会場の空気そのものが少し変わったな、という感じだった。

これまでの当局は、JARL登録クラブメンバーとして、受付やMAP・新聞の配布といった裏方に回ることが多かった。今年は久しぶりに、HAM仲間とのんびり会場を歩けた。裏方も楽しいのだが、客として回るハムフェアはやっぱり格別だ。

今回の楽しみは3つ。

  • 新製品・新商品の展示確認
  • CQオームブースでの MK-705/Final Edition50 試作品の確認と試し打ち
  • ジャンク発掘と、ブースの皆さんとのコミュニケーション

どれも当たりだったのだが、書き出すと長くなる。今回はアイコムの新製品「IC-7110」に絞ってまとめておきたい。






結論:この2台は「似て非なるもの」だ

IC-7110とFTX-1 optima-50は、スペック表を並べると同じカテゴリーに見える。だが設計思想はまったく違う。

IC-7110は「操作部を自由に置ける、徹底したセパレート機」。FTX-1は「操作部そのものが無線機で、必要に応じて出力を足していく変身機」。カバーする周波数もモードも似ているのに、目指している運用スタイルが別物だと感じる。

そして価格帯で素直に比べるなら、FTX-1 optima-50(税込237,600円)の対抗馬は100W版のIC-7110ではなく、全バンド50Wの「IC-7110M」と見るのが自然だと思う。

大事なポイントを3つに絞ると、こうなる。

ポイント1:IC-7110は「現代版IC-7100」。操作部だけでは電波は出せない
操作部と本体を必ずケーブルで接続して使う。フィールド運用に向く、という表現は「操作部だけでQRPができる」という意味ではなかった。

ポイント2:FTX-1最大の武器は「内蔵ATU」と「バッテリー6W運用」
50WパワーアンプSPA-1MにHF/50MHz帯の高速ATUが入っている。しかもフィールドヘッドを外せば、付属バッテリーだけで6W運用ができる。IC-7110には真似のできない芸当だ。

ポイント3:IC-7110は「つながる機能」で一歩先に出た
Wi-Fi、Bluetooth、LAN端子、USB Type-C。さらにCWの欧文・和文デコード。ネットワーク時代のRIGとしての作り込みは、こちらのほうが厚い。ただしATUは非搭載である。

スペック比較表

現時点で公表されている情報をもとに、当局なりに並べてみた。
IC-7110はまだ未発表項目が多いので、そこは「未発表」と正直に書いてある。

項目ICOM IC-7110 / IC-7110MYAESU FTX-1 optima-50
コンセプトHF~430MHz オールモード・完全セパレートHF~430MHz オールモード・フィールド/モービル
対応バンドHF / 50 / 144 / 430MHzHF / 50 / 144 / 430MHz
モードSSB / CW / RTTY / AM / FM / D-STARSSB / CW / AM / FM / C4FM
ラインアップIC-7110(HF/50=100W、144/430=50W)
IC-7110M(全バンド50W)
IC-7110S(HF=10W、50MHz以上=20W)
Field(10W)
optima-50(10W/50W)
DX(100W、固定用)
受信方式IC-705などと同じダイレクトサンプリング方式48MHz未満はダイレクトサンプリング、以上はシングルコンバージョンIFサンプリング
ディスプレイ4.3インチ カラータッチ4.3インチ カラータッチ
スコープリアルタイムスペクトラム+ウォーターフォール約30fps、3DSS、ウォーターフォール、オーディオスコープ
2波同時受信○ HF+144、HF+430、144+430 など異バンド○ HF/V、HF/U、V/U、V/V、U/U(HF/HFは不可)
CWデコード○ 欧文・和文(IC-7300MK2譲り)公式仕様に記載なし
FT8支援○ FT8簡単設定○ PRESETモード
デジタル音声/網D-STARC4FM/WIRES-X
APRS現時点で発表なし
Wi-Fi○ 内蔵(RS-BA1リモート、オンライン更新に対応)記載なし
Bluetooth○ 内蔵BU-6がオプション
GPS/GNSS海外サイト情報では内蔵(国内未確認)FGPS-5がオプション
LAN端子ありなし
USBUSB Type-CUSB Type-C(CAT 3系統)
メモリカードSDカードmicroSD
スピーカー操作部に内蔵(本体側にはなし)2WAYフロントスピーカー+本体2.5W
分離完全セパレート、3.5mケーブル付属(5mはオプション)フィールドヘッドをPA部から分離可能
操作部だけで送受信× 不可◎ 可能
バッテリー運用×◎ 6,400mAh付属で6W・約9時間
外部13.8V接続で10W
内蔵ATU× 非搭載(外付けAH-6を推奨)◎ HF/50MHz高速ATUをSPA-1Mに内蔵
外形寸法正式値未発表。会場での概測で操作部 約198×83×39mm、本体 約168×58×240mm213×89×240mm(フィールドヘッド含む)
ヘッド単体 213×89×55mm
重量未発表約3.9kg(ヘッド単体は約1.25kg)
50W時消費電流未発表約16A(HF/50MHz 50W)
価格(税込)未発表237,600円(Field 159,500円/DX 231,000円)
発売時期未発表。和歌山工場で量産準備中との話発売済み

※IC-7110の欄は、会場での確認とアイコムの発表、および報道された情報をもとにしている。受信感度・選択度・重量・消費電流・価格・発売日はいずれも未発表だ。





「現代版IC-7100」と「変身する無線機」

この2台を並べて眺めていて、いちばん面白かったのがここだ。

IC-7110は、型番のとおりIC-7100(2013年発売、2025年5月生産終了)の後継機である。操作部はあくまでコントローラーで、RFユニットは本体側にある。操作部だけを持って外に出ても、それは無線機にならない。会場でも「操作部と本体を必ず接続した状態での運用になります」と明言されていた。

対してFTX-1は、フィールドヘッドそのものが10W級のトランシーバーだ。必要に応じて50WのPAをドッキングする。

FTX-1 optima-50
6Wポータブル → 10W移動 → 50Wモービル =「変身する無線機」

IC-7110M
操作部+50W RFユニット =「徹底したセパレート無線機」

身近な例えでいうと、FTX-1はノートPCだ。それ単体で完結して動くし、ドックにつなげばデスクトップ並みに使える。IC-7110はデスクトップPCとモニター+キーボードの関係に近い。モニターだけ持ち出しても何も映らないが、その代わり本体をトランクや机の奥に押し込んで、手元は薄い操作部だけ、という置き方ができる。

どちらが偉いという話ではない。「持ち出したいのか」「設置したいのか」という、まったく別の問いに対する答えなのだ。

アパマン・FT8・6m目線で見るとどうか

IC-7110Mが魅力的なところ

まず、Wi-Fi、Bluetooth、LAN、USB Type-Cが最初から載っているのが強い。RS-BA1によるリモート運用も想定されていて、ネットワークRIGとしては一歩先に見える。Wi-FiでインターネットにつなげばファームウェアやD-STARレピータリストが自動更新される、というオンラインアップデート機能も標準だという。

そして、アイコム自身がFT8の簡単設定を明記している。PCとのUSB接続やLAN/Wi-Fi周辺がどう実装されるかによっては、かなりFT8向けの扱いやすいRIGになる可能性がある。当局のようにベランダから細々とやっている人間には、ここは効く。

加えて、CWの欧文・和文デコードまで載ってくる。IC-7300MK2で好評だった機能がそのまま来た形だ。それと、地味だが効きそうなのが操作部フロントのスピーカーボタンのイルミネーション。夜間のモービル運用を明確に意識した設計で、本体を後ろに追いやっても手元で音が聞ける。よく考えられている。

FTX-1 optima-50が魅力的なところ

これはやはり内蔵ATUだ。HF/50MHz帯の高速ATUがSPA-1Mに最初から入っている。アイコムは逆に本体を小さくするためATUを載せず、外付けのAH-6を推奨する方針である。

そして、フィールドヘッドを外して、6,400mAhのバッテリーだけで6Wで約9時間。外部13.8Vをつなげば10W。これはIC-7110には真似できない、FTX-1最大の武器だと思う。公園でも河原でも、リュックから出したらそれで運用が始まる。

もうひとつ面白いのが「2波受信」

FTX-1はかなり強烈で、HF/V、HF/U、V/U、V/V、U/Uまで対応し、C4FM同士の同時再生までできる。ただしHF/HFは不可だ。

IC-7110も、HF+144MHz、HF+430MHz、144+430MHzといった異バンドの2波同時受信が発表されている。背面には受信2系統ぶんのスピーカー出力とアンテナ端子が並んでいた。HF帯でCWコンテストをやりながら、144MHzでローカルの声を聞く――そういう使い方を考えると、当局にはなかなか刺さる。

気になるところ、そして価格

ATU非搭載。本体をコンパクトにするための判断だとは理解できるのだが、うーむアイコム、そこは付けてほしかったぞ、と言いたくなる。当局にとって、移動運用やアパマン運用で屋外やベランダにアンテナを立てるような状況だと、ATUは「あると便利」ではなく「ないと始まらない」装備なのだ。外付けAH-6を足せば済む話ではあるが、その分だけ財布と設置場所に効いてくる。

そして最大の未知数が価格である。現時点でアイコムからは何も発表されていない。

参考までにヤエス側の値付けを見ると、FTX-1 Fieldが159,500円、optima-50が237,600円、DXが231,000円。実は100W機のDXより、50W機のoptima-50のほうが高い。SPA-1Mとバッテリーが両方付いてくるのだから当然といえば当然なのだが、この価格表は一度眺めておく価値がある。

そのうえで、IC-7110Mが20万円台前半~半ばに来るかどうか。ここでoptima-50との勝負が一気に熱くなると思う。

まとめ

今の情報だけで選べと言われたら、当局の答えはこうなる。

  • 移動運用・フィールド運用を重視するなら → FTX-1 optima-50
  • 固定+モービル、FT8とリモート運用を重視するなら → IC-7110M

個人的にいちばん「おっ」と思ったのは、IC-7110がCW欧文・和文デコード、Wi-Fi、Bluetooth、LANを全部入れてきたことだ。IC-7100の後継として、単に置き換えるのではなく、13年ぶんの時代を丸ごと詰め込んできた印象がある。

ただし、繰り返しになるがIC-7110の情報はまだ不完全だ。重量も、消費電流も、受信性能も、価格も、発売日も出ていない。正式スペックが出たら、あらためて表を見直したいと思う。

それにしても、こういう「並べて悩む時間」がハムフェアの後のいちばんの楽しみだったりする。買うかどうかはさておき、である。

参考:hamlife.jp「【ハムフェア2026】アイコム、新製品『IC-7110』をハムフェア会場で世界初公開」/八重洲無線 FTX-1シリーズ製品ページ

73 de JI1ALP

2026年8月23日日曜日

最後のMK-705 39,800円で瞬殺!

 パドルは「名機」より「相性」だと思う話

「MK-705/Final Edition50」は、値段で語る商品ではない。あれは昭和の日本のものづくりを50台分だけ延命させた記録であって、実用パドルの新製品ではないのだ。だから39,800円という数字に驚いた人も、発表から二日で完売したことに驚いた人も、たぶん同じところで驚いている。そして――ここが本題なのだが――私自身は、たとえ買えたとしても、たぶん使わない。パドルは名機かどうかより、指との相性で決まるからである。




「MK-705/Final Edition50」


CQオーム(岐阜)が、ハイモンド・エレクトロ社(静岡・御前崎)がかつて発売していた双レバー式パドル「MK-705」を50台限定で復活生産した。オリジナル商品「MK-705/Final Edition50」として、9月発売予定・予約受付というアナウンスだった。ハムフェア2026の同社ブース)で予約分の受け取りも可能、という段取りである。

そして8月22日の朝、hamlife.jpに追記が入った。完売。ハムフェア会場では試作品の展示のみになるという。私が記事に気づいた時点で、すでに勝負はついていた。Hi.

ポイントは3つある

1. 39,800円は「高い」のか ― 部品8点を新造した50台限定

まず値段の話をしておく。税込39,800円。パドルとして安くはない。だが内訳を聞くと、印象がかなり変わる。

MK-705は、あの小さな見た目で約100点の部品から成っている。レバー、支点、バネ、スペーサー、調整機構――細かく分けることで打鍵感と耐久性、そして「何十年後でも直せる」という保守性を確保していた設計だ。人件費より材料費・金型費が重かった時代の、職人が組んで調整する前提のものづくりである。

ところがその純正部品の在庫が尽き、8種類が欠品、しかも金型まで失われていた。普通ならここで「終了」である。CQオームはその8点を新造することを決めた。50台分のためだけに図面を起こし、加工方法を検討し、試作を繰り返して、昭和から眠っていた純正部品と組み合わせて50台を組み上げた。ベースは天然大理石、透明カバー付き、No.01/50~No.50/50のナンバー入り。

中学生に説明するならこう言う。学校の廃番になった上履きを、50人分だけ作り直すようなものだ。金型を新しく作るお金は1000人分作るときと変わらない。それを50人で割るのだから、一足あたりは当然高くなる。それでも作ったのは、儲かるからではなく、残したかったからである。記事にも「採算度外視の覚悟」とあった。そう考えると39,800円は、むしろ安いほうに振ってあると私は思う。

項目内容
価格39,800円(税込)
台数50台限定(No.01/50~No.50/50)
仕様天然大理石台・双レバー式・透明カバー付き
寸法約100(L)×90(W)×58(H)mm
重量約650g
状況9月発売予定 → 8月22日時点で完売

2. 二日で完売 ― 「使う道具」から「残す文化」へ

20日に記事が出て、22日の朝には完売である。50台という数字が小さいのは確かだが、それにしても速い。

これは単純な争奪戦というより、CWをやる人間の中に「今買わないと、この世からMK-705が本当に終わる」という感覚が共有されていた、ということだと思う。無線機なら「次のモデル」がある。だがハイモンドのMK-705に次はない。今回の50台が最終ロットだと明言されている以上、これは製品の販売というより、閉店セールというより閉館式に近い

個人的にちょっと感慨深いのは、こういう「効率の悪い作り方」が価値として評価される時代になった、という点だ。部品点数を削り、一体成形で作るのが正義とされてきた数十年を経て、100点の部品を職人が組む製品に人が並ぶ。長く電子の世界にいた身としては、悪い気はしない。

3. それでも私は買わない ― パドルは「名機」ではなく「相性」

ここからは完全に私の話である。

ハイモンドのパドル/マニピュレーターでは、私はMK-706を持っていた。作りは文句なくいい。日本製らしい丁寧さがある。だが、スクイズ操作については、私の指にはベンチャー(Bencher)やベガリ(Begali)のほうが合っていた。これは優劣ではなく、レバーの支点位置、動き出しの重さ、跳ね返りの速さといったものが、自分の指の癖と合うか合わないかの問題だ。

たとえるならボールペンである。1本500円の書きやすいペンと、1本5万円の万年筆。どちらが「いいペン」かと聞かれれば万年筆だが、テストで速く書けるのはどっちか、という話とは別なのだ。パドルもまったく同じで、コンテストで1日中叩き続けたときに疲れないのは、値段が高いほうとは限らない。

そして私が個人的にいちばん好きなハイモンドは、実は双レバーではない。MK-702である。単レバー複式電鍵、いわゆるシングルレバーパドルだ。あのシンプルさ、余計なことを考えずに済む感じが好きだ。双レバーのスクイズは確かに速いが、私の場合、指が勝手に余計な符号を打ってしまうことがある。シングルなら、打った分しか出ない。当局の運用スタイルには、そのくらいが合っている。

そしてMK-702の最大の特徴は、なんといっても大型の大理石系重量ベースである。あれは効く。パドルというのは、打鍵の力が本体を動かしてしまうと途端に不安定になる道具で、逆に言えば「動かない」ことがそのまま打ちやすさになる。まな板と同じだ。薄いプラスチックのまな板の上でネギを刻むと台ごと滑るが、分厚い木のまな板なら包丁だけに集中できる。MK-702のあの重い石の台は、まさにその「動かないまな板」なのだ。

比較軸双レバー(MK-705など)シングルレバー(MK-702など)
メリットスクイズで符号を高速に組み立てられる/コンテスト向き/指の移動が少ない構造が単純で誤打鍵が少ない/調整箇所が少なく扱いやすい/打った分だけ出る安心感
デメリットスクイズの癖が合わないと余計な符号が出る/調整がシビア/慣れるまで時間がかかる連続符号は双レバーほど速くない/スクイズの恩恵は受けられない


「MK-702 単レバー複式電鍵/シングルレバーパドル」

念のため書いておくと、これは「MK-705が良くない」という話ではまったくない。むしろ逆で、あれだけの評価と愛用者を長年集めてきた名機である。ただ、名機だからといって自分の指に合うとは限らない、というだけの話だ。パドル選びで悩んでいる方には、
可能ならハムフェアなどの会場で実際に触ってから決めることを強くおすすめする。


最後に

  • 発表から二日で完売。MK-705はもう「買える道具」ではなく「残された記録」になった
  • それでもパドルは相性がすべて。私はMK-706を持っていたが、スクイズはベンチャーやベガリのほうが手に合ったし、好きなのは大型大理石ベースの単レバー複式電鍵、MK-702である (もっと好きなパドルもあるんだよ、実は....よう知らんけど)

手に入れた50名の方、おめでとうございます。No.入りの最後のMK-705で打つCQは、きっといい音がすると思う。私はといえば、相変わらず自分の指に合ったパドルで、今日も7MHzを覗くつもりだ。

73 de JI1ALP

参考:hamlife.jp「<最後にして最高の50台!>CQオーム、ハイモンドのモールス通信用パドルを復活させ『MK-705/Final Edition50』として限定発売」(2026年8月20日/8月22日追記)

大腸がん 〜増えている理由と予防〜

大腸がんは今や日本人にとって非常に身近な病気であり、年間15万人以上が新たに診断されている。その背景には「高齢化」だけでなく、食生活の変化や運動不足といった生活習慣が大きく関わっている。

予防のカギは、
①野菜をしっかり摂る、
②赤身肉・加工肉を摂りすぎない、
③適度に体を動かす、
④定期的にがん検診を受けること。
今日からの小さな積み重ねで、リスクはぐっと下げられる。

ポイント①:大腸がんは、実はとても身近な病気

2023年、日本で新たに大腸がん(結腸がん・直腸がんの合計)と診断された人は、年間約15万4,000人(男性約8万5,000人、女性約6万9,000人)にのぼる(国立がん研究センター「がん統計」)。

これは1日あたりに換算すると、400人以上が毎日新たに大腸がんと診断されている計算になる。学校のクラス(1クラス30〜40人)で例えるなら、毎日どこかの町で10クラス分以上の人が新しく診断されているようなイメージだ。

がんの罹患率(かかりやすさ)は男女とも第2位、がんによる死亡率で見ると男性は第2位、女性は第1位という、女性にとって特に注意が必要ながんでもある。

ポイント②:なぜ大腸がんは増えているのか

大腸がんは年齢とともに増えるがんなので、高齢化が進んだこと自体も患者数増加の一因である。ただし、年齢構成の違いを取り除いて比較する「年齢調整罹患率」で見ても、1985年と比べて現在の方が高くなっており、高齢化だけでは説明できない要因があることが分かっている。

大きな要因とされているのが、食生活と生活習慣の変化だ。

  • 脂肪の多い食事や、肉を中心とした食事の機会が増えた(特にソーセージ・ハム・ベーコンなどの加工肉や赤身肉の摂取は、大腸がんとの関連が指摘されている)
  • 仕事や生活が便利になり、日常的に体を動かす機会が減った(運動不足・肥満の増加)
  • 野菜や果物、発酵食品の摂取量が減り、食物繊維の摂取量が落ちている

実際、1日あたりの食物繊維摂取量は、約20年前は男性19.2g・女性17.6gだったのに対し、2023年では男性15.0g・女性13.6gまで減少しており、全体で約20〜25%も少なくなっている。

食物繊維は「便通をよくするもの」というイメージが強いが、それだけではない。食物繊維は小腸では消化されずに大腸まで届き、そこにいる腸内細菌のエサになる。中学校の理科で習う「分解者」のように、腸内細菌が食物繊維を分解して腸内環境を整えてくれるのだ。逆に食物繊維が不足すると、善玉菌が減って悪玉菌が増えやすくなり、腸内で炎症が起きやすくなることで、大腸がんのリスクが高まると考えられている。

たとえるなら、食物繊維は腸の中の「お掃除係であり、良い菌のごはん」でもあるということ。掃除もごはんも足りない部屋(=腸)は、荒れやすくなってしまう、というイメージだ。

ポイント③:今日からできる、大腸がんの予防

1. 野菜を積極的に摂る

厚生労働省が推奨する野菜摂取の目標は、1日350g以上。一度に摂る必要はなく、朝・昼・晩の食事に少しずつ取り入れて、1日の合計で目指すのがポイントだ。

食物繊維が比較的多く含まれる野菜の例は以下の通りだ。

野菜 食物繊維の目安(100gあたり)
ごぼう 約5.7g
ブロッコリー やや多め
さつまいも やや多め
かぼちゃ やや多め
キャベツ・ほうれん草 日常的に取り入れやすい

秋にかけては、ごぼう・さつまいも・かぼちゃ・にんじん・大根など食物繊維が豊富な野菜が旬を迎える。旬の野菜は味がよいだけでなく栄養価も高く、手に入りやすいというメリットもある。

2. 赤身肉・加工肉の摂取を控えめに

赤身肉は1週間あたり500gを超えないことが一つの目安とされている。特にハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉は、摂取を控えめにすることが勧められている。とはいえ肉を完全に断つ必要はなく、魚や豆類も取り入れながらバランスよく食べることが大切だ。

3. 適度に体を動かす

運動習慣は大腸がんのリスクを下げるだけでなく、腸の動きを活発にして便通の改善にもつながる。激しい運動でなくても、ウォーキングなど日常生活の中で無理なく続けられるものから始めれば十分だ。

4. 定期的にがん検診を受ける

大腸がんは、早期に発見できれば治療できる可能性が高いがんだ。だからこそ、症状がなくても定期的な検診で早期発見することが重要になる。

まとめ

大腸がんは決して他人事ではなく、生活習慣を見直すことで予防につなげられる病気だ。まずは今日の食事に野菜料理をもう1品増やすところから、無理なく始めてみてはどうだろうか。

健康管理士一般指導員(
健康管理能力検定1級) JI1ALP 深井


※本記事は、日本成人病予防協会の「大腸がん」の解説記事および、統計数値は国立がん研究センター「がん統計」の公表データを確認のうえ掲載している。

参考・出典
国立がん研究センター がん情報サービス「大腸:がん統計」https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/67_colorectal.html
日本生活習慣病予防協会「がんの部位別罹患率では、男女とも第2位が大腸がん」https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2024/010805.php

2026年8月22日土曜日

World Radio League ---クラウド時代のログブック

World Radio League(WRL)というサービスについてまとめておく。

「移動先で、スマホだけでログが完結したらどんなに楽か」

ノートPCを開いて、Turbo HAMLOGやCTESTWINを立ち上げて、帰宅してからデスクトップPCでハムログに読ませる。この一連の儀式が、移動運用先ではやたらと重い。そんなことを考えていたところに海外のサイトを眺めていて目に入ったのが、World Radio League(WRL)というサービスだ。当局はまだ本格運用していないが、調べてみたら思いのほか面白かったので、ここにまとめておく。










World Radio League のTOP画面










World Radio League のTOP画面 を Google Chrome で
日本語に翻訳した画面


結論

国内のQSL運用が中心ならTurbo HAMLOG、移動運用とデータの持ち歩きが中心ならWRL。どちらが優れているという話ではなく、土俵が違う。現実的な答えは併用で、スマホのWRLで現地入力 → ADIFで書き出し → ハムログへ取り込みという流れが一番ムダがないと考えている。
※Turbo HAMLOG は直接ADIFを取り込めないので、変換ソフトが必要。

World Radio League とは何者か

米国のライセンス学習サイト Ham Radio Prep と同じ会社が運営する、Webベースのログブックサービスである。2023年8月に「ソフトのセットアップなしで、初心者が最初のQSOを記録できる場所」として始まり、そこからPOTA対応、ライブスコアリング付きのコンテスト機能へと広がってきた。2026年のWRTC(世界選手権)では公式ライブスコアボードも担当している。

アカウントは無料。Webブラウザ、iOS、Android、デスクトップアプリが用意されている。

特長その1 ― 端末をまたいで自動で同期する

WRLの本質はここに尽きる。スマホで入力したQSOが、そのままWeb側のログブックに反映される。しかも完全にオフラインで動く。山の中でも公園でも、電波が届かない場所でアクティベーションを最初から最後まで記録して、圏内に戻った瞬間にサーバへ上がる。

紙のノートではなく、Googleドキュメントに書いているようなものだと思えばいい。どの端末で開いても同じものが見える。ログのバックアップを意識しなくていいというのは、思っている以上に精神衛生に良い。




スマホ版(iPhone)の World Radio League 

特長その2 ― POTAとコンテストの作り込みが実戦的

パークリファレンスの入力、POTAネットワークへのオートスポット、ロガーからの再スポット。ADIFの入出力。そしてライブスコアリング付きのコンテスト機能。

細かいところでは、同一バンド内の周波数変更なら末尾だけ打てばいい。14.256MHzに移りたければ「.256」と入力してDone。片手でスマホを持ったまま操作することを、ちゃんと想定して作られている。この手の配慮がある道具は、たいてい作者が実際に運用している。









POTAのMap 他にも IOTA  SOTA などの画面あり

特長その3 ― ログが「見せられる」

他局の最新QSOがリアルタイムで流れるフィード、世界地図表示、モード別のリーダーボード。用途ごとに複数のログブック(自宅・クラブ局・POTA・SOTA)を持てて、QSOごとに電子QSLカードが自動生成される。

ログがSNSのタイムラインになった、という感じだ。「記録する」道具から「見せる・競う」道具へと軸足を移している。この発想は、日本のログソフトにはあまりない。








「Map View」QSOした直近50局の位置をMapで表示させた画像

Turbo HAMLOG との比較

観点Turbo HAMLOGWorld Radio League
動作環境 Windows専用(7/8/10/11)。ローカル完結で軽い
× Mac・スマホ不可。PCの前に座る必要がある
Web+iOS/Android+デスクトップ。オフライン入力+自動同期
× ネット前提の設計。サービス終了リスクは常にある
日本向け機能 ユーザーリストGet's、免許状Get's、JCC/JCG対応、JARL非会員あてQSL印刷の抑制、QRコード印刷
× 海外アワード管理は弱め
世界地図・グローバルな集計
× JCC/JCG、JARL会員照会、QSL転送の概念なし。UIは英語のみ
QSLカード 紙QSLの印刷が圧倒的に強い。テンプレートの自由度が高い
× 設定が独特で、最初はとっつきにくい
QSOごとに電子QSLカードを自動生成
× JARL転送用の紙印刷は不得手
移動運用・POTA 別ソフトか手入力が必要
× 現地でPCを開く前提
パーク番号入力、オートスポット、再スポットまでアプリ内で完結
× SOTAやJAFF系の作り込みは発展途上
コンテスト × 本格運用にはCTESTWINやzLogが別途必要 ライブスコアリング付き。WRTC2026の公式スコアボードも担当
× 国内コンテストのルールには非対応
継続性・情報量 2026年1月にVer5.47cが出るなど更新が続く。日本語の解説書も掲示板も豊富
× ソースコードは非公開。作者個人に依存する構造
開発が活発で、UIが現代的
× 米国のスタートアップ運営。日本語の情報がほぼない
費用 フリーソフト 無料アカウントで主要機能が使える
押さえどころ
① 土俵が違う。ハムログは「業務日誌+QSL製造機」、WRLは「持ち歩けるログ+見せるSNS」。カーナビとスマホの地図アプリの関係に近い。
② 日本のQSLビューロー文化はハムログの独壇場。JARL会員かどうかを判定して印刷を出し分ける、そんな機能が海外製に載ることはまずない。
③ WRLの本命はスマホ完結。自宅シャックでリグ制御と一緒に回すなら、出番は少ない。

当局ならどう使うか

正直に言えば、メインログをWRLに移すつもりはない。国内交信のQSLをどう捌くかという一点だけでも、ハムログを手放す理由がない。hQSLの利用率は体感でも確実に増えていて、そこはハムログの生態系そのものだ。

ただし、移動運用の一次入力としては十分に試す価値がある。アンテナを立てて、スマホでログを取り、帰宅したらADIFで吸い上げる。PCを持ち出さずに済むなら、荷物がリュックひとつ軽くなる。これはジジイ(失礼!OM)の身体には無視できない差だ。

まずは自宅で数千局ぶん入力して、ADIFの往復でデータが壊れないかを確認するところから始めたい。ログの移行というのは、コールサインの大文字小文字やモード名の表記ゆれで案外あっさり事故る。慎重にやる。

試してみたら、また報告する。

World Radio League

73 de JI1ALP

2026年8月20日木曜日

ハイモンド HK-1Z —「本当に電流を切る」電鍵

古いハイモンドの電鍵、HK-1Z を入手した。大理石の台に黒いベース、そして飴色に光る真鍮の銘板。机に置いた瞬間、部屋の空気が少し古くなったような気がした。










【ハイモンド HK-1Zの全景】

使い捨てライターと並べると、この大きさ。ずっしり重い。


この電鍵は「高級な置物」ではなく、明確な設計思想を持った実用機である。

  1. HK-1Z は φ6mm の銀接点を持つ、本当に大きな電流を切るための電鍵である。
  2. ハイモンドという会社の歴史は、創業者個人の経歴と法人の設立年が混ざって語られてきた。
  3. 台座の下部ベースの材質が、個体の年代を推定する手掛かりになる。

1. そもそも「ハイモンド」とは何者なのか

ハイモンドの創業者は Takaitsu Takatsuka(高塚)氏とされる。漢字表記は資料によって揺れがあるので、ここでは断定しないでおく。

経歴が実に濃い。1911年生まれ。1928年、まだ十代で海上無線の世界に入り、1929年に二級、1931年に一級の無線通信士免許を取得している。1932年には海軍に通信員として入り、1946年までその任にあった。戦後も無線・電子の道を歩み続けた、生粋の通信屋である。

そして社名。HI-MOUND という響きは洒落ていて、

  • 高 = High(Hi)
  • 塚 = Mound

つまり「高塚」を英訳したブランド名だと伝えられている。自分の名前を英語に直訳してブランドにする——なんとも良い時代の感覚だと思う。

2. 創業年が資料によって違う、という問題

調べていて最初に引っかかったのがここだった。 Hi-Mound は1946年創業としている。一方、海外の電鍵史資料では 1953年に電通精機株式会社(Dentsu-Seiki K.K.)を設立、1964年に経営難で活動停止、1968年に Hi-Mound Electro Co. を設立という、まったく別の年号が並んでいる。

どちらかが誤り、と切って捨てるのは簡単だが、高塚氏の経歴と並べてみると、これは食い違いではなく「何を数えているかの違い」だと考えた方がすっきりする。

何が起きたか
1946年 高塚氏が海軍を離れ、民間の通信・電子の仕事に戻った年。Radiomuseum の「創業1946年」はここを起点に取っている可能性が高い。=人物史の起点
1953年 東京で電通精機株式会社を設立。SWALLOW ブランドの電鍵はここから生まれた。=電鍵製造のルーツ
1964年 電通精機が経営難で活動を停止。
1968年 Hi-Mound Electro Co. を設立。=法人としてのハイモンドの起点

大まかな系譜は、

高塚無線 → 電通精機/SWALLOW → HI-MOUND ELECTRO

と見ると、非常に分かりやすい。「創業年はどれが正しいのか」と悩むより、人物の歩みと会社の器を分けて眺める方が、この会社の輪郭はよく見えてくる。

なお高塚氏は2003年2月28日、92歳で亡くなり、息子の Gouzo Takatsuka 氏が後を継いでいる。創業者は去っても、その姓を英訳したブランドは今も残っている。当局の机の上にも、こうして。

3. HK-1Z は「本当に電流を切る」電鍵である
















【HK-1Z の銘板】 
TELEGRAPH KEY / TYPE HK-1Z / HIMOUND ELECTRO CO.


一見すると単なる高級大理石電鍵なのだが、実はハイモンドの古い設計思想をかなり色濃く残している。

CQ出版社の『モールス・キー コレクション』では、HK-1Z について 銀接点 φ6mm という、かなり大きな接点を持つことが確認できる。さらに前部上側の接点は取り外し・調整が可能な構造。大型接点なので大電流のキーイングが可能で、発光信号用にも使用可能だったとされる。

接点の大きさは「我慢できる電流の量」

接点というのは、要するに金属どうしがぶつかって電気を通す場所である。そしてその大きさは、そのまま「どれだけの電流に耐えられるか」に直結する。

豆電球を点けるスイッチと、部屋の壁にある照明スイッチを思い浮かべてほしい。同じ「スイッチ」でも、中身の金属の厚みはまるで違う。φ6mm という銀接点は、電鍵としては明らかに壁スイッチ側の発想なのだ。

「発光信号用にも使えた」というのも、同じ理由で腑に落ちる。ランプを直接点滅させるには、それなりの電流を通し、そして切らなければならないからだ。

「KEY端子をON/OFFするだけ」ではない時代

現代の電鍵は、トランシーバーの KEY 端子を短絡するだけの、いわば「信号のスイッチ」である。流れる電流はごくわずかで、接点はほとんど摩耗しない。

だが真空管送信機を直接キーイングしていた時代には、接点そのものに相応の電気的能力が要求された。押した瞬間に本当に電流が流れ、離した瞬間に本当に切れる。HK-1Z は「本当に電流を切る電鍵」なのである。φ6mm という巨大な銀接点は、その時代の名残と考えると非常に納得できる。

4. 台座を見れば、年代が推定できる

















【HK-1Z の台座構造】 
天然大理石の板を、黒い下部ベースが受け止める二層構造。


台座は天然大理石+黒色下部ベースという堂々たる構成。この二層構造がまた良くて、白い石と黒い縁のコントラストだけで、机の上の格が一段上がる。

そして面白いのが、製造時期によって下部ベースの材質が異なるという点だ。CQ出版資料によれば、次のような違いが確認されている。

時期 下部ベース
前期 黒色モールド台
後期 黒色ABS樹脂台

つまり中古市場で HK-1Z を見比べる場合、「大理石の下が何でできているか」が、年代を推定する一つの手掛かりになる。これはコレクター的にはかなり重要なポイントだと思う。

当局の個体はどうか。
側面の型の合わせ目、台座を叩いたときの音、質感などから黒色ABS樹脂台の後期型と判断した。

5. おわりに

HK-1Z を手に入れて分かったのは、この電鍵が「装飾のために重いのではなく、仕事のために重かった」ということだ。大理石は打鍵の反力を受け止めるため、φ6mm の銀接点は本物の電流を切るため。どちらも、飾りではない。

電鍵は道具であると同時に、その時代の送信機がどんなものだったかを語る証人でもある。半世紀前の設計思想が、今も机の上でカチカチと音を立てている。これがこの趣味の、いちばん贅沢なところだと思う。

次は実際に打鍵した感触と、簡単な整備の記録を書く予定。

[主な参考資料]
・CQ出版社『モールス・キー コレクション』
・Radiomuseum.org(Dentsu Seiki/Hi-Mound の項)
・海外の電鍵史資料(Dentsu Seiki & Hi-Mound の沿革)

73 de JI1ALP