当局の結論。この3台に「どれが一番いい電鍵か」という答えはない。あるのは方向性の違いだけである。
同じハイモンドの縦ぶれ電鍵でありながら、HK-1Z、HK-808、HK-802は打鍵感の設計思想がまるで違う。特にHK-1ZとHK-802は、優劣ではなく「好み」と「打ち方」で評価が真っ二つに分かれるタイプだと思う。
前回、当局が入手した古いハイモンドの大理石電鍵 HK-1Z について、その歴史と設計思想を書いた。φ6mmという巨大な銀接点、大電流キーイングを前提とした構造、大理石と黒色下部ベースの組み合わせ ―― あくまで「もの」としての話だった。
今回はその続きである。あの設計は、実際に指へどう返ってくるのか。
手元のHK-808、HK-802と並べて打ち比べてみたら、これが想像以上に面白かった。以下、当局の実感とWeb上の各種レビュー・A1 CLUBの資料を突き合わせながら整理してみる。
今回の3つのポイント
- HK-1Zは「コツッ」なのに柔らかい。大径接点が生む独特の粘りがあり、しかも個体差が大きい。
- HK-808は「ドライで軽快」。接点は明確なのにレバーは滑らか ―― バネ圧の重さと機構の軽さは別物である。
- HK-802は別系統。スウェーデン式に近い構造で、ほとんど力を要さず流れるように打てる。ただし独特の「ビーン」がある。
まずは一覧で ―― 3機種・打鍵感比較
| 項目 | HK-1Z | HK-808 | HK-802 |
|---|---|---|---|
| 打鍵感の一言 | 柔らかく、粘りがある | ドライで軽快 | 滑らかでソフト |
| キーを押した感触 | コトッ、コツッと柔らかく受け止める | コツコツと明確 | トトトト…と流れる感じ |
| 接点の感触 | 大型接点特有の「粘り」 | 接点のON/OFFが明瞭 | 衝撃が少なく柔らかい |
| 戻り | 穏やか。調整次第ではかなり良い | 速く、キレが良い | 滑らかで自然 |
| 反動 | 少なめ | 比較的明確 | 非常に少ない |
| 硬さ | 柔らかめ | やや硬質~軽快 | ソフト |
| 操作音 | コトコト系 | コツコツ・カチカチ系 | 静かめ+「ビーン」という微振動あり |
| 高速打鍵 | ○~◎ | ◎ | ◎ |
| 長時間運用 | ◎ | ○~◎ | ◎ |
| 反動式との相性 | 非常に良いとの評価あり | 相性良好 | 打ち方がやや異なる |
| 精密感 | ○~◎ | ◎ | ◎ |
| 個性 | 非常に強い | 万能型 | 独特 |
| 向いている人 | 打鍵そのものを味わいたいCWマン | 癖なく高速に打ちたい人 | 軽い力で長時間打ちたい人 |
1. HK-1Z ――「コツッ」なのに柔らかい、不思議な電鍵
今回いちばん興味深かったのがHK-1Zだった。
当局の感覚でも、大径の接点は「コツコツと決まる」。ところが同時に、HK-808にはない柔らかさを持っている。この二つが同居しているのが不思議なのだ。
Web上の各種レビューでも、「接点が広いので、打った時に粘りがある」「すごく打ち心地がよく、柔らかい」といった表現が見られる。どうやら当局だけの錯覚ではないらしい。
普通の縦ぶれ電鍵の感触を言葉にすると、
という流れになる。ところがHK-1Zは、
に近い。「当たる」ではなく「受け止められる」。ここがこの電鍵の核心だと思う。
A1 CLUBのアンケートにも「接点が大きいので手首への衝撃がソフト」という証言がある。φ6mmという大接点は、大電流キーイングのための設計でありながら、結果として打鍵衝撃を分散するクッションにもなっていたわけだ。前回書いた「設計思想」が、そのまま指先の感触として返ってくる。これは正直、書いていて気持ちがいい。
同じHK-1Zでも、打ち味が違う
さらに面白いのは、HK-1Zを5台所有している方が「全部打ち味が違う」とWEBで書いていることだ。コツコツ、コトコト、カチカチ ―― 同じ型番なのに個体ごとに感触が異なるという。
これは古い電鍵ならではの魅力だと思う。HK-1Zという一つの打鍵感が存在するのではなく、個体そのものを味わう電鍵なのかもしれない。
中古で手に入れるとき、これは怖くもあり、楽しくもある。当局の一台がどんな性格なのかは、結局のところ打ってみるまで分からなかった。
2. HK-808 ――「ドライで軽い」ハイモンドの優等生
HK-808は、当局の感覚では「ドライで軽い感じ」で、非常に打ちやすい。
一方、Web上のユーザーは「固い感触だが精密感がある」と表現している。一見すると当局の印象と矛盾しているようだが、たぶんこの食い違いこそが重要だ。
バネ圧そのものの重さと、機構の動きの軽さは別物なのである。
分かりやすく言えば、自転車のブレーキレバーを想像してほしい。握り込む力が要るブレーキでも、レバーの軸がきちんと整備されていればスッと動く。逆に軽いバネでも軸が渋ければゴリゴリする。「重さ」と「滑らかさ」は別々に効いてくる。
HK-808はボールベアリング軸受けを採用し、滑らかな打鍵を狙った構造になっている。大理石ベースも重く、連続打鍵しても本体が動きにくい。だから、
という一見矛盾した感触が成立する。CQオームに残るユーザーレビューでも「コツコツ感」「なかなかいい感触」という評価が見られる。
面白い弱点もある
HK-808では打鍵後に残響を感じる場合があり、人によっては違和感になるという指摘がある。またノブ位置が比較的高く、長時間の操作では手首への負担を感じる可能性も指摘されている。
ただし当局自身は、残響はあまり感じない。このあたりも個体差か、設置環境か、あるいは打ち方の違いなのだろう。
まとめると、HK-808は「切れ味」を楽しむ電鍵である。HK-1Zの「コトッ」と受け止める感覚とは、はっきり対照的だ。
3. HK-802 ―― ほかの2台とは設計思想そのものが違う
HK-802だけは、同じハイモンドでも別系統と考えた方がよさそうだ。
スウェーデンの「Swedish Pump Key」によく似た構造で、接点が支点より後ろ側に配置される独特の方式を採っている。A1 CLUBの資料でも「ソフトで非常に打ちやすい」と評価されている。
この構造だと、普通の縦ぶれのように接点が「ガツン」と指へ返ってきにくい。てこの支点の位置が違うのだから、力の返り方が変わるのは当然といえば当然である。
当局の感覚としてはこうだ。
- 動きが非常に滑らか
- 打鍵がほとんど力を必要としない
- 長時間でも疲れにくい
- 高速送信しやすい
ただし「ビーン」がある
HK-802には独特の「ビーン」という振動がある。鋼線のバネなどが共振し、電鍵自身が打鍵衝撃を吸収しているように感じられる。
打鍵後の残響は、HK-808よりはるかに大きい。これを嫌う人もいるし、「これこそ802だ」と感じる人もいる。まさに打鍵感の世界である。
当局は後者に近い。あの余韻を含めて802という電鍵なのだと思っている。
3台を擬音で比べてみる
結局、打鍵感というのは言葉にしづらい。ならば擬音でいくのが早い。
| HK-1Z | コトッ、コトッ、コトッ |
| HK-808 | コツッ、コツッ、コツッ |
| HK-802 | トトトトト…… |
並べてみると、性格の違いがはっきりする。
- HK-1Zは「接点を感じながら打つ」
- HK-808は「レバーを正確に操る」
- HK-802は「滑らかに流す」
同じ縦ぶれ電鍵で、同じメーカーで、やっていることは「接点をON/OFFする」だけなのに、ここまで違う。面白いものだと思う。
まとめ ―― 優劣ではなく、方向性
冒頭に書いたとおり、この3台に順位はつけられない。
打鍵そのものを味わいたいならHK-1Z。癖なく正確に高速で打ちたいならHK-808。軽い力で長時間流したいならHK-802。用途と好みで選ぶべきものだ。
そしてHK-1Zについては、もう一つ付け加えておきたい。個体差があるということは、「自分の一台」を見つける楽しみがあるということでもある。同じ型番の電鍵を5台並べて打ち味を比べる ―― 一見すると酔狂だが、その気持ちはよく分かる。
当局のHK-1Zは、コトッと静かに受け止めてくれるタイプだった。前回の記事で調べた大接点の設計思想が、そのまま指先に返ってくる。古い電鍵を手に入れるというのは、こういうことなのだと思う。
73 de JI1ALP
Member of A1CLUB
