14MHzのFT8は入った、FT4は消えた
今回のRI1FJLは、当局にとって「バンドニュー+モードニュー」をひとつ稼いだ運用だった。
14MHz FT8でログに入り、同じ14MHzのFT4はNIL(Not In Log)。フランツヨーゼフ諸島(FJL)はすでにCWでコンファーム済みなので、ATNOの緊張感はない。それでも10年ぶりに開いた扉である。そして当局の本命は、これから出てくるRI1FJZのほうだ。
この記事のポイント3つ
- FT8は入り、FT4は消えた。デジタルでも「返ってきた=ログに入った」ではない。
- FJLは近いのに遠い。松戸から約5,940km・方位348度。ハワイより近いのに、経路がまるごとオーロラ帯の下を通る。
- 次はRI1FJZ。SSBと各バンドのFT8を伸ばすチャンス。ただし悪天候で出発が遅れている。
1. 当局の戦績 ── 14MHzで明暗が分かれた
今回の当局の結果を先に並べておく。
| バンド | モード | コールサイン | 結果 |
|---|---|---|---|
| 7MHz | CW | 過去のFJL局 | 交信済・コンファーム |
| 21MHz | CW | 過去のFJL局 | 交信済・コンファーム |
| 28MHz | CW | 過去のFJL局 | 交信済・コンファーム |
| 14MHz | FT8 | RI1FJL | QSO成立 |
| 14MHz | FT4 | RI1FJL | NIL(Not In Log) |
設備はいつもの布陣である。FTDX-10に、10階ベランダの釣竿アンテナ+SG-230スマートチューナー。大砲を持っているわけではない。北向きのパスに、ATUで無理やり整合させた1本の竿で挑んだ、というのが実態だ。
FT8のほうは、こちらのレポートに対してRR73が返り、画面上はきれいに完結した。問題はFT4である。手応えとしては同じように「取ってもらえた」感触だったのに、ログサーチをかけると影も形もない。
これはデジタルモードにありがちな話だ。FT4は速い。速いということは、1回のやりとりに与えられた時間が短く、取りこぼしたときの復旧余地も小さいということでもある。7.5秒のシーケンスは、ホームの停車時間が極端に短い特急のようなもので、乗ったつもりでもドアが閉まっていた、ということが起こる。相手が受信できなかったのか、混信で潰れたのか、あるいは向こうのログ側で落ちたのか。こちらからは判別できない。
NILの扱いについて
RI1FJLチームは、現地のインターネット回線が極端に遅く(Starlinkが使えない環境だ)、ログのアップロードも滞りがちだった。チーム自身、ログにないという問い合わせは帰国後にまとめて確認すると表明している。慌ててOQRSを叩かず、最終ログが出そろってからもう一度サーチをかけるのが正解だろう。当局もそうするつもりだ。
2. フランツヨーゼフ諸島とは何者か ── 「見つけたのに黙っていた島」
面白いのは、最初に見つけた人間が黙っていたことだ。1865年、ノルウェーのアザラシ猟船スピッツベルゲン号がスヴァールバル北東で陸地を発見した。ところが猟場を同業者に知られたくないので、公表しなかった。よく釣れるポイントを人に教えない釣り人と、まったく同じ理屈である。
公式の発見者は別にいる。1872〜74年のオーストリア=ハンガリー北極探検隊(ユリウス・パイエル指揮)が公表し、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世にちなんで命名した。その後、1898年のウェルマン隊、翌年のステラ・ポラーレ号、1901〜05年のジーグラー極地探検隊と続く。ロシアは1914年に領有を主張し、ソ連が1926年4月15日に正式併合してアルハンゲリスク州に組み入れた。
1932年からはチーハヤ湾(フッカー島)やルドルフ島にソ連の気象観測所が置かれる。ちなみに第二次大戦中には、アレクサンドラ島にドイツ軍の気象基地が誰にも気づかれずに存在していた。
現在の姿は、約192島・面積16,134km²、恒久的な住民はおらず軍と観測隊のみ。ルドルフ島のフリーゲリー岬は東半球最北端で、北極点まで約900kmしかない。1994年から自然保護区、2012年にロシア北極国立公園の一部となった。今回RI1FJLが運用したハイス島のクレンケリ観測所は、1957/58年の国際地球観測年に設立され、2001年に一度放棄、2004年に小規模・近代的な形で再開されたものだ。世界最北の郵便局があるのもここである。
3. 過去のDXペディション ── 「一人の気象台長」が支えた20年
FJLのオンエア史は、大規模ペディの歴史ではない。孤独な常駐局の歴史である。
| 時期 | コールサイン/運用者 | 内容 |
|---|---|---|
| ソ連末期〜1990年代 | 4K2プレフィックス | 1993年には映画撮影隊に同行したOE1RMSが4K2/OE1RMSで運用 |
| 1990年代 | R1FJZ(Sergei Tsybizov) | 1995年にSWLレポートが確認されている程度の散発運用 |
| 2006〜2008 | R1FJT(Eugeny Chepur, UA4RX) | 気象観測班長として常駐 |
| 2010〜2013 | RI1FJ(同上) | R1FJT時代と合わせ約80,000交信。DXCCチャレンジ用のバンドエンティティを1,000以上供給し、すべてLoTW対応 |
| 2013〜14シーズン | (空白) | Eugenyが撤収。後任が来ないことがほぼ確実になり、FJLは再びレアエンティティ化 |
| 2015〜2016 | RI1FJ(復帰) | 2015年夏に砕氷船で入島するも機材トラブルで2016年6月末までオンエアできず。コンディションも劣悪で、取りきれない局が続出 |
| 2026年8〜9月 | RI1FJL(RUDXTチーム) | ハイス島(EU-019)。6名体制、CW/SSB/デジタル |
| 2026年9月(予定) | RI1FJZ(別チーム) | アレクサンドラ島。最大7台のリグ、EME・LEO・QO-100も予定 |
つまり2016年から2026年まで、事実上10年の空白があった。そこへ今年、別々のチームによるペディが2件も重なった。DX界では10年に一度の異常事態である。
RI1FJLの現地事情も相当きつい。RUDXTが2年がかりで準備し、予算は約8万ドル。小さなチームには重すぎる額で、コミュニティの寄付に頼った。ムルマンスクからヨット「マリア」で出港し、5〜6mの波と19ノットの北風で漂流、FT-891が1台故障。8月21日には濃霧で上陸が夜まで遅れ、約1,000kgの機材を陸揚げしている。パイルの向こう側に、そういう2年間があると思うと、返ってきたRR73の重みが少し変わる。
4. 交信難度 ── JAから見た評価は★★★★☆
当局の評価は★★★★☆(4)。ただし今回のようにペディが出ている期間に限れば★★★(3)まで下がる。ブーベ(★5)ほどではないが、常時オンエアが望めないという点で恒常的な難関だ。難しさの中身は3つある。
① 経路がオーロラ帯を直撃する
松戸からハイス島まで約5,940km、方位348度。距離だけならハワイより近い「ご近所」の部類である。ところが真北へ抜ける極回りパスは磁気嵐にめっぽう弱い。高速道路自体は短いのに、峠が冬季通行止めになりやすいと考えるとイメージが近い。K指数が上がった日は、信号が「弱くなる」のではなく「消える」。今回も現地から、強風で信号が歪んで受信が難しいという報告が出ていた。
② ヨーロッパという壁
FJLからEUまでは目と鼻の先で、パイルの厚みが桁違いだ。運用者自身が、パイルが巨大なのにオペレーターの人数が足りず全バンド・全モードには出られない、と述べている。JAはEUが薄くなる時間帯を狙うしかない。今回14MHzのFT8で拾ってもらえたのも、その隙間だった。
③ 運用機会そのものが希少
機材も人も現地に置いておけない。年表のとおり、10年オンエアがない期間が普通に発生する。だから出ているうちに、出られるバンドで、出られるモードで取る。これに尽きる。
5. 次はRI1FJZ ── SSBと各バンドFT8を伸ばしたい
ここからが本題かもしれない。もう一組、RI1FJZがアレクサンドラ島から出る。RA1ZZ、R9LR、RA9USU、R9LM、RW6MDら5名の運用で、最大7台のリグ(CW/SSB×2、デジタル×5)を予定。さらにEME、LEO衛星、QO-100まで視野に入れているという意欲的な計画だ。R9LRはFJL再訪、RA1ZZに至ってはこの遠征のために仕事を辞めたと伝えられている。本気度が違う。
ひとつ注意点がある。当初9月9日〜25日とされていた運用だが、現地の悪天候で出発が9月7日ごろまで遅れているという情報が出ている。ムルマンスクから島まで航海に5日前後かかるので、オンエア開始は当初予定より後ろにずれる可能性がある。DX-Worldなどの情報をこまめに見ておきたい。
当局の作戦メモ
- SSBを最優先。CWとFT8は押さえたので、次はフォーンで一枚。オペレーター数が多く、SSB専用リグを2台立てる編成は当局にとって追い風だ
- FT8はバンドを広げる。14MHzは確保済み。18MHz・21MHz・10MHzあたりを狙う。マルチストリーム運用はパイルに強い
- FT4は無理に追わない。今回のNILで懲りた。取りこぼしたときのリカバリーが効かない
- 時間帯はEUが薄くなる瞬間。JAの夕方〜夜のハイバンド、深夜〜早朝のローバンド
- 50W+釣竿でも諦めない。チーム側が遠方局・低電力局を優先して拾う方針を掲げているのはありがたい
QSLはClub LogのOQRS、LoTWは帰宅後数日以内にアップ予定とのこと。当局は例によって、まず最終ログの確定を待つ。
おわりに
10年沈黙していたエンティティが、ひと月のうちに二度も開く。こういう年は、そう何度も来ない。CWで押さえた7/21/28MHzに、今回FT8で14MHzが加わった。次はSSBだ。
FT4のNILは悔しいが、あれはあれで記録である。取れなかった1局を覚えているから、次に取れた1局が嬉しい。DXとはそういう遊びだと思う。
皆さんもRI1FJZ、ぜひ狙ってみてほしい。
73 de JI1ALP


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