2026年9月15日火曜日

PCなしでFT8 SDR機 Retevis HS5 を調べてみた

海外のアマチュア無線界隈で、Retevis の新型リグ HS5 が話題になっている。 うたい文句は「100W スタンドアロンSDR」「PCなしでFT8」。7インチのタッチパネルに HF 100W+2m 50W、ATU内蔵、Wi-Fi まで載せて約1,286ドルだという。

スペック表だけ眺めると、まさに全部盛りである。IC-7300MK2 とほぼ同じ価格帯に、これだけの機能を詰め込んできた。果たして実際のところはどうなのか。気になったので当局なりに調べてみた。


出典:Retevis公式

結論:コンセプトは魅力的だが、現時点では「注目しつつ様子見」

  • 「本体だけでFT8」「7型画面」「HF+2m+ATU」という組み合わせは、この価格帯では他にない
  • ただし、第三者による測定データと実ユーザーのレビューがまだほとんど無い
  • 日本で運用するには技適が無いという大きなハードルがある

以下、順に見ていく。

Retevis HS5 の正体

Retevis は中国・深圳のメーカーだ。ハンディ機や DMR 機でおなじみのブランドで、「最初に買った安いハンディ機が Retevis だった」という方も多いだろう。そのメーカーが HF 100W 機に参入してきたわけである。

ところが調べてみると、HS5 はゼロから開発された新機種ではない。型番は RS-998。オープンソースの SDR プロジェクト「Wolf DDC/DUC Transceiver」(ロシアの UA3REO プロジェクトの派生)をベースにした機種で、HamGeek などから既に販売されていた RS-998 を、Retevis が自社ブランドで展開したものと見るのが自然だ。公式の仕様表にも「RU4PN / WF-100D Version」という記載がある。

つまり中身は、既に一部で流通している「中華 Wolf SDR」の系譜ということになる。

主なスペック

項目内容
方式SDR(DDC/DUC)
受信0.5〜750MHz
送信HF(1.8〜30MHz)、144〜148MHz
出力HF 100W/VHF 50W以上
モードCW / SSB / AM / FM / WFM / DIGI
画面7インチ 静電容量式タッチ
ATU内蔵
通信Wi-Fi、USB-C(サウンドカード内蔵)、microSD
電源DC13.8V(30A級推奨)
サイズ・重量340×140×135mm/約5.5kg
付属品ハンドマイク、DCケーブル、アルミケース

アルミキャリングケースが付属する。移動運用を意識した構成だ(出典:Retevis公式)

注目ポイント

ポイント1:本体だけでFT8が完結する

最大の目玉はこれである。FT8 のエンコード/デコードを本体に内蔵しており、タッチパネルでデコード一覧を見ながら、そのまま応答できる。CW デコーダーも内蔵だ。

FT8 をやろうとすると、PC、インターフェース、ケーブル、時刻同期と、準備がそれなりに面倒になる。移動運用ならなおさらだ。これが本体だけで済むというのは、PC を持ち出したくない局には刺さるだろう。

ポイント2:7インチの大画面

IC-7300 や FT-710 は 4.3 インチ。HS5 は 7 インチなので、ウォーターフォールの見やすさは一回り上である。

ポイント3:HF+2m+ATUを1台で

HF 100W に加えて 144MHz にも出られ、チューナーまで内蔵している。移動運用で「これ1台」を実現しやすい構成だ。

ポイント4:0.5〜750MHzの広帯域受信

エアバンドや FM 放送も受信できる。受信機としても遊べるリグである。


背面には大型ヒートシンクと冷却ファン、SO-239端子×2(出典:Retevis公式)

価格

  • Retevis公式(米国):$1,285.99(送料無料。クーポンで$120オフの施策あり。調査時点では在庫切れ)
  • カナダ Fleetwood Digital:CA$1,799.99
  • 参考:同系機 HamGeek RS-998:約$1,150〜1,255

円換算で約19万円前後。関税や消費税などが別途かかる可能性もある。IC-7300MK2 に真正面からぶつけてきた価格設定だ。

ライバル機との比較

機種HS5IC-7300MK2FT-991AFT-710IC-7100X6200
送信バンドHF+2mHF+6mHF/6/2/70cmHF+6mHF/6/2/70cmHF+6m
出力100W100W100W100W100W8W
画面7型4.3型3.5型4.3型分離型4型
ATU内蔵×××
本体FT8××××
Wi-Fi××××
重量5.5kg約4.2kg約4.1kg約4.3kg約2.3kg約1kg
技適なしありありありありなし
価格目安$1,286$1,299〜1,499約$1,300約$1,100約$900約$700

※価格は米国実売の目安であり、変動する。

表の「○」の数だけで言えば、HS5 の圧勝である。

しかし、IC-7300 シリーズや FT-710 には長年の実績があり、第三者による受信性能の測定データも揃っている。国内サポートもある。これは表の○×では比べられない部分だ。カタログスペックで選ぶか、実績で選ぶか。ここは道具選びの考え方そのものが問われるところだろう。

「本体で FT8」という点では、QRP 機の Xiegu X6200 も対抗馬になる。軽さを取るなら X6200、100W と大画面を取るなら HS5、という棲み分けになりそうだ。

評判と期待度

期待されている点

  • 「PCなしFT8+7型+100W」というコンセプトへの反響は大きく、海外ブログでは HS5 の記事にアクセスが集中しているという
  • Retevis 公認の初見レビュー動画も公開済み
  • 原型の RS-998 については「思ったより良い」という好意的なレビューもある

気になる点

  • 実ユーザーのレビューがまだほぼ無い。公式ページのレビューは0件である
  • 受信性能やスプリアスの独立した測定データが見当たらない
  • RS-998/WF-100D/HS5 と名称が入り乱れており、バージョン差を気にする声も出ている
  • 販促バナーの画像と、公式の製品写真のデザインがかなり違う。バナーは大きなメインダイヤルを備えたモダンな筐体だが、公式写真は「ALL MODE DDC/DUC TRANSCEIVER」の表記と F1〜F8 キーが並ぶ、従来の RS-998 筐体そのものだ。うーむ、これはどちらが実際に届くのか。購入前には必ず実機写真を確認したい
  • 5.5kg は IC-7300 より重い。ケース付きで持ち運べるとはいえ、「ポータブル」と呼ぶには少々ヘビーである

日本で運用する場合の注意

ここは重要なので、しっかり書いておく。

  1. 技適マークは無いと考えられる。日本で開局・運用するには、TSS などによる保証認定を受ける必要がある。100W で運用するなら、無線従事者資格や局の免許条件も改めて確認しておきたい。
  2. 送信範囲は 144〜148MHz だが、日本の2mバンドは 144〜146MHz である。バンド外で電波を出さないよう、設定と運用には注意が必要だ。
  3. 広帯域受信は楽しいが、電波法の秘密の保護には留意すること。

「買ってすぐ電波を出せるリグ」ではない。この点は、日本のユーザーにとって大きなハードルである。

まとめ

こんな局に向いているこんな局は様子見
PCなしでFT8をやりたい受信性能の実績を重視する
大画面でウォーターフォールを見たい国内サポート・技適が必須
新しいSDR機をいじるのが好き開局手続きの手間を避けたい
保証認定の手続きを厭わない軽量なポータブル機が欲しい


コンセプトと価格設定は非常に魅力的で、「IC-7300 の値段で全部入り」というインパクトは十分にある。一方で、オープンソース由来ゆえに完成度はファームウェア次第という面もある。現時点では、第三者の測定データと実ユーザーの長期レビューを待ちたいというのが当局の正直な感想だ。

続報が入ったら、また取り上げたい。

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参考資料

画像出典:Retevis公式サイト。記事内の価格・仕様は2026年9月15日時点の調査に基づく。

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