2026年8月23日日曜日

最後のMK-705 39,800円で瞬殺!

 パドルは「名機」より「相性」だと思う話

「MK-705/Final Edition50」は、値段で語る商品ではない。あれは昭和の日本のものづくりを50台分だけ延命させた記録であって、実用パドルの新製品ではないのだ。だから39,800円という数字に驚いた人も、発表から二日で完売したことに驚いた人も、たぶん同じところで驚いている。そして――ここが本題なのだが――私自身は、たとえ買えたとしても、たぶん使わない。パドルは名機かどうかより、指との相性で決まるからである。




「MK-705/Final Edition50」


CQオーム(岐阜)が、ハイモンド・エレクトロ社(静岡・御前崎)がかつて発売していた双レバー式パドル「MK-705」を50台限定で復活生産した。オリジナル商品「MK-705/Final Edition50」として、9月発売予定・予約受付というアナウンスだった。ハムフェア2026の同社ブース)で予約分の受け取りも可能、という段取りである。

そして8月22日の朝、hamlife.jpに追記が入った。完売。ハムフェア会場では試作品の展示のみになるという。私が記事に気づいた時点で、すでに勝負はついていた。Hi.

ポイントは3つある

1. 39,800円は「高い」のか ― 部品8点を新造した50台限定

まず値段の話をしておく。税込39,800円。パドルとして安くはない。だが内訳を聞くと、印象がかなり変わる。

MK-705は、あの小さな見た目で約100点の部品から成っている。レバー、支点、バネ、スペーサー、調整機構――細かく分けることで打鍵感と耐久性、そして「何十年後でも直せる」という保守性を確保していた設計だ。人件費より材料費・金型費が重かった時代の、職人が組んで調整する前提のものづくりである。

ところがその純正部品の在庫が尽き、8種類が欠品、しかも金型まで失われていた。普通ならここで「終了」である。CQオームはその8点を新造することを決めた。50台分のためだけに図面を起こし、加工方法を検討し、試作を繰り返して、昭和から眠っていた純正部品と組み合わせて50台を組み上げた。ベースは天然大理石、透明カバー付き、No.01/50~No.50/50のナンバー入り。

中学生に説明するならこう言う。学校の廃番になった上履きを、50人分だけ作り直すようなものだ。金型を新しく作るお金は1000人分作るときと変わらない。それを50人で割るのだから、一足あたりは当然高くなる。それでも作ったのは、儲かるからではなく、残したかったからである。記事にも「採算度外視の覚悟」とあった。そう考えると39,800円は、むしろ安いほうに振ってあると私は思う。

項目内容
価格39,800円(税込)
台数50台限定(No.01/50~No.50/50)
仕様天然大理石台・双レバー式・透明カバー付き
寸法約100(L)×90(W)×58(H)mm
重量約650g
状況9月発売予定 → 8月22日時点で完売

2. 二日で完売 ― 「使う道具」から「残す文化」へ

20日に記事が出て、22日の朝には完売である。50台という数字が小さいのは確かだが、それにしても速い。

これは単純な争奪戦というより、CWをやる人間の中に「今買わないと、この世からMK-705が本当に終わる」という感覚が共有されていた、ということだと思う。無線機なら「次のモデル」がある。だがハイモンドのMK-705に次はない。今回の50台が最終ロットだと明言されている以上、これは製品の販売というより、閉店セールというより閉館式に近い

個人的にちょっと感慨深いのは、こういう「効率の悪い作り方」が価値として評価される時代になった、という点だ。部品点数を削り、一体成形で作るのが正義とされてきた数十年を経て、100点の部品を職人が組む製品に人が並ぶ。長く電子の世界にいた身としては、悪い気はしない。

3. それでも私は買わない ― パドルは「名機」ではなく「相性」

ここからは完全に私の話である。

ハイモンドのパドル/マニピュレーターでは、私はMK-706を持っていた。作りは文句なくいい。日本製らしい丁寧さがある。だが、スクイズ操作については、私の指にはベンチャー(Bencher)やベガリ(Begali)のほうが合っていた。これは優劣ではなく、レバーの支点位置、動き出しの重さ、跳ね返りの速さといったものが、自分の指の癖と合うか合わないかの問題だ。

たとえるならボールペンである。1本500円の書きやすいペンと、1本5万円の万年筆。どちらが「いいペン」かと聞かれれば万年筆だが、テストで速く書けるのはどっちか、という話とは別なのだ。パドルもまったく同じで、コンテストで1日中叩き続けたときに疲れないのは、値段が高いほうとは限らない。

そして私が個人的にいちばん好きなハイモンドは、実は双レバーではない。MK-702である。単レバー複式電鍵、いわゆるシングルレバーパドルだ。あのシンプルさ、余計なことを考えずに済む感じが好きだ。双レバーのスクイズは確かに速いが、私の場合、指が勝手に余計な符号を打ってしまうことがある。シングルなら、打った分しか出ない。当局の運用スタイルには、そのくらいが合っている。

そしてMK-702の最大の特徴は、なんといっても大型の大理石系重量ベースである。あれは効く。パドルというのは、打鍵の力が本体を動かしてしまうと途端に不安定になる道具で、逆に言えば「動かない」ことがそのまま打ちやすさになる。まな板と同じだ。薄いプラスチックのまな板の上でネギを刻むと台ごと滑るが、分厚い木のまな板なら包丁だけに集中できる。MK-702のあの重い石の台は、まさにその「動かないまな板」なのだ。

比較軸双レバー(MK-705など)シングルレバー(MK-702など)
メリットスクイズで符号を高速に組み立てられる/コンテスト向き/指の移動が少ない構造が単純で誤打鍵が少ない/調整箇所が少なく扱いやすい/打った分だけ出る安心感
デメリットスクイズの癖が合わないと余計な符号が出る/調整がシビア/慣れるまで時間がかかる連続符号は双レバーほど速くない/スクイズの恩恵は受けられない


「MK-702 単レバー複式電鍵/シングルレバーパドル」

念のため書いておくと、これは「MK-705が良くない」という話ではまったくない。むしろ逆で、あれだけの評価と愛用者を長年集めてきた名機である。ただ、名機だからといって自分の指に合うとは限らない、というだけの話だ。パドル選びで悩んでいる方には、
可能ならハムフェアなどの会場で実際に触ってから決めることを強くおすすめする。


最後に

  • 発表から二日で完売。MK-705はもう「買える道具」ではなく「残された記録」になった
  • それでもパドルは相性がすべて。私はMK-706を持っていたが、スクイズはベンチャーやベガリのほうが手に合ったし、好きなのは大型大理石ベースの単レバー複式電鍵、MK-702である (もっと好きなパドルもあるんだよ、実は....よう知らんけど)

手に入れた50名の方、おめでとうございます。No.入りの最後のMK-705で打つCQは、きっといい音がすると思う。私はといえば、相変わらず自分の指に合ったパドルで、今日も7MHzを覗くつもりだ。

73 de JI1ALP

参考:hamlife.jp「<最後にして最高の50台!>CQオーム、ハイモンドのモールス通信用パドルを復活させ『MK-705/Final Edition50』として限定発売」(2026年8月20日/8月22日追記)

1 件のコメント:

  1. こんにちは。MK-705はCWを始めた頃の憧れでした。高価で購入できず、ベンチャー使っていた思い出が有ります。CWの練習は高校時代の部室に有ったMK-702で覚えた記憶が有ります。現在のキーはバイブロのアイアンビック・キーのARRL100周年記念のキーを使っています。コールとシリアル番号入で#777だったので、未だ使っています。キーは、やっぱり手に馴染んで打ちやすいのが一番ですね。

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