パドルは「名機」より「相性」だと思う話
「MK-705/Final Edition50」は、値段で語る商品ではない。あれは昭和の日本のものづくりを50台分だけ延命させた記録であって、実用パドルの新製品ではないのだ。だから39,800円という数字に驚いた人も、発表から二日で完売したことに驚いた人も、たぶん同じところで驚いている。そして――ここが本題なのだが――私自身は、たとえ買えたとしても、たぶん使わない。パドルは名機かどうかより、指との相性で決まるからである。
CQオーム(岐阜)が、ハイモンド・エレクトロ社(静岡・御前崎)がかつて発売していた双レバー式パドル「MK-705」を50台限定で復活生産した。オリジナル商品「MK-705/Final Edition50」として、9月発売予定・予約受付というアナウンスだった。ハムフェア2026の同社ブース)で予約分の受け取りも可能、という段取りである。
そして8月22日の朝、hamlife.jpに追記が入った。完売。ハムフェア会場では試作品の展示のみになるという。私が記事に気づいた時点で、すでに勝負はついていた。Hi.
ポイントは3つある
1. 39,800円は「高い」のか ― 部品8点を新造した50台限定
まず値段の話をしておく。税込39,800円。パドルとして安くはない。だが内訳を聞くと、印象がかなり変わる。
MK-705は、あの小さな見た目で約100点の部品から成っている。レバー、支点、バネ、スペーサー、調整機構――細かく分けることで打鍵感と耐久性、そして「何十年後でも直せる」という保守性を確保していた設計だ。人件費より材料費・金型費が重かった時代の、職人が組んで調整する前提のものづくりである。
ところがその純正部品の在庫が尽き、8種類が欠品、しかも金型まで失われていた。普通ならここで「終了」である。CQオームはその8点を新造することを決めた。50台分のためだけに図面を起こし、加工方法を検討し、試作を繰り返して、昭和から眠っていた純正部品と組み合わせて50台を組み上げた。ベースは天然大理石、透明カバー付き、No.01/50~No.50/50のナンバー入り。
中学生に説明するならこう言う。学校の廃番になった上履きを、50人分だけ作り直すようなものだ。金型を新しく作るお金は1000人分作るときと変わらない。それを50人で割るのだから、一足あたりは当然高くなる。それでも作ったのは、儲かるからではなく、残したかったからである。記事にも「採算度外視の覚悟」とあった。そう考えると39,800円は、むしろ安いほうに振ってあると私は思う。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 価格 | 39,800円(税込) |
| 台数 | 50台限定(No.01/50~No.50/50) |
| 仕様 | 天然大理石台・双レバー式・透明カバー付き |
| 寸法 | 約100(L)×90(W)×58(H)mm |
| 重量 | 約650g |
| 状況 | 9月発売予定 → 8月22日時点で完売 |
2. 二日で完売 ― 「使う道具」から「残す文化」へ
20日に記事が出て、22日の朝には完売である。50台という数字が小さいのは確かだが、それにしても速い。
これは単純な争奪戦というより、CWをやる人間の中に「今買わないと、この世からMK-705が本当に終わる」という感覚が共有されていた、ということだと思う。無線機なら「次のモデル」がある。だがハイモンドのMK-705に次はない。今回の50台が最終ロットだと明言されている以上、これは製品の販売というより、閉店セールというより閉館式に近い。
個人的にちょっと感慨深いのは、こういう「効率の悪い作り方」が価値として評価される時代になった、という点だ。部品点数を削り、一体成形で作るのが正義とされてきた数十年を経て、100点の部品を職人が組む製品に人が並ぶ。長く電子の世界にいた身としては、悪い気はしない。
3. それでも私は買わない ― パドルは「名機」ではなく「相性」
ここからは完全に私の話である。
ハイモンドのパドル/マニピュレーターでは、私はMK-706を持っていた。作りは文句なくいい。日本製らしい丁寧さがある。だが、スクイズ操作については、私の指にはベンチャー(Bencher)やベガリ(Begali)のほうが合っていた。これは優劣ではなく、レバーの支点位置、動き出しの重さ、跳ね返りの速さといったものが、自分の指の癖と合うか合わないかの問題だ。
たとえるならボールペンである。1本500円の書きやすいペンと、1本5万円の万年筆。どちらが「いいペン」かと聞かれれば万年筆だが、テストで速く書けるのはどっちか、という話とは別なのだ。パドルもまったく同じで、コンテストで1日中叩き続けたときに疲れないのは、値段が高いほうとは限らない。
そして私が個人的にいちばん好きなハイモンドは、実は双レバーではない。MK-702である。単レバー複式電鍵、いわゆるシングルレバーパドルだ。あのシンプルさ、余計なことを考えずに済む感じが好きだ。双レバーのスクイズは確かに速いが、私の場合、指が勝手に余計な符号を打ってしまうことがある。シングルなら、打った分しか出ない。当局の運用スタイルには、そのくらいが合っている。
そしてMK-702の最大の特徴は、なんといっても大型の大理石系重量ベースである。あれは効く。パドルというのは、打鍵の力が本体を動かしてしまうと途端に不安定になる道具で、逆に言えば「動かない」ことがそのまま打ちやすさになる。まな板と同じだ。薄いプラスチックのまな板の上でネギを刻むと台ごと滑るが、分厚い木のまな板なら包丁だけに集中できる。MK-702のあの重い石の台は、まさにその「動かないまな板」なのだ。
| 比較軸 | 双レバー(MK-705など) | シングルレバー(MK-702など) |
|---|---|---|
| メリット | スクイズで符号を高速に組み立てられる/コンテスト向き/指の移動が少ない | 構造が単純で誤打鍵が少ない/調整箇所が少なく扱いやすい/打った分だけ出る安心感 |
| デメリット | スクイズの癖が合わないと余計な符号が出る/調整がシビア/慣れるまで時間がかかる | 連続符号は双レバーほど速くない/スクイズの恩恵は受けられない |
最後に
- 発表から二日で完売。MK-705はもう「買える道具」ではなく「残された記録」になった
- それでもパドルは相性がすべて。私はMK-706を持っていたが、スクイズはベンチャーやベガリのほうが手に合ったし、好きなのは大型大理石ベースの単レバー複式電鍵、MK-702である (もっと好きなパドルもあるんだよ、実は....よう知らんけど)
手に入れた50名の方、おめでとうございます。No.入りの最後のMK-705で打つCQは、きっといい音がすると思う。私はといえば、相変わらず自分の指に合ったパドルで、今日も7MHzを覗くつもりだ。
73 de JI1ALP
参考:hamlife.jp「<最後にして最高の50台!>CQオーム、ハイモンドのモールス通信用パドルを復活させ『MK-705/Final Edition50』として限定発売」(2026年8月20日/8月22日追記)



こんにちは。MK-705はCWを始めた頃の憧れでした。高価で購入できず、ベンチャー使っていた思い出が有ります。CWの練習は高校時代の部室に有ったMK-702で覚えた記憶が有ります。現在のキーはバイブロのアイアンビック・キーのARRL100周年記念のキーを使っています。コールとシリアル番号入で#777だったので、未だ使っています。キーは、やっぱり手に馴染んで打ちやすいのが一番ですね。
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