2026年8月20日木曜日

ハイモンド HK-1Z —「本当に電流を切る」電鍵

古いハイモンドの電鍵、HK-1Z を入手した。大理石の台に黒いベース、そして飴色に光る真鍮の銘板。机に置いた瞬間、部屋の空気が少し古くなったような気がした。










【ハイモンド HK-1Zの全景】

使い捨てライターと並べると、この大きさ。ずっしり重い。


この電鍵は「高級な置物」ではなく、明確な設計思想を持った実用機である。

  1. HK-1Z は φ6mm の銀接点を持つ、本当に大きな電流を切るための電鍵である。
  2. ハイモンドという会社の歴史は、創業者個人の経歴と法人の設立年が混ざって語られてきた。
  3. 台座の下部ベースの材質が、個体の年代を推定する手掛かりになる。

1. そもそも「ハイモンド」とは何者なのか

ハイモンドの創業者は Takaitsu Takatsuka(高塚)氏とされる。漢字表記は資料によって揺れがあるので、ここでは断定しないでおく。

経歴が実に濃い。1911年生まれ。1928年、まだ十代で海上無線の世界に入り、1929年に二級、1931年に一級の無線通信士免許を取得している。1932年には海軍に通信員として入り、1946年までその任にあった。戦後も無線・電子の道を歩み続けた、生粋の通信屋である。

そして社名。HI-MOUND という響きは洒落ていて、

  • 高 = High(Hi)
  • 塚 = Mound

つまり「高塚」を英訳したブランド名だと伝えられている。自分の名前を英語に直訳してブランドにする——なんとも良い時代の感覚だと思う。

2. 創業年が資料によって違う、という問題

調べていて最初に引っかかったのがここだった。 Hi-Mound は1946年創業としている。一方、海外の電鍵史資料では 1953年に電通精機株式会社(Dentsu-Seiki K.K.)を設立、1964年に経営難で活動停止、1968年に Hi-Mound Electro Co. を設立という、まったく別の年号が並んでいる。

どちらかが誤り、と切って捨てるのは簡単だが、高塚氏の経歴と並べてみると、これは食い違いではなく「何を数えているかの違い」だと考えた方がすっきりする。

何が起きたか
1946年 高塚氏が海軍を離れ、民間の通信・電子の仕事に戻った年。Radiomuseum の「創業1946年」はここを起点に取っている可能性が高い。=人物史の起点
1953年 東京で電通精機株式会社を設立。SWALLOW ブランドの電鍵はここから生まれた。=電鍵製造のルーツ
1964年 電通精機が経営難で活動を停止。
1968年 Hi-Mound Electro Co. を設立。=法人としてのハイモンドの起点

大まかな系譜は、

高塚無線 → 電通精機/SWALLOW → HI-MOUND ELECTRO

と見ると、非常に分かりやすい。「創業年はどれが正しいのか」と悩むより、人物の歩みと会社の器を分けて眺める方が、この会社の輪郭はよく見えてくる。

なお高塚氏は2003年2月28日、92歳で亡くなり、息子の Gouzo Takatsuka 氏が後を継いでいる。創業者は去っても、その姓を英訳したブランドは今も残っている。当局の机の上にも、こうして。

3. HK-1Z は「本当に電流を切る」電鍵である
















【HK-1Z の銘板】 
TELEGRAPH KEY / TYPE HK-1Z / HIMOUND ELECTRO CO.


一見すると単なる高級大理石電鍵なのだが、実はハイモンドの古い設計思想をかなり色濃く残している。

CQ出版社の『モールス・キー コレクション』では、HK-1Z について 銀接点 φ6mm という、かなり大きな接点を持つことが確認できる。さらに前部上側の接点は取り外し・調整が可能な構造。大型接点なので大電流のキーイングが可能で、発光信号用にも使用可能だったとされる。

接点の大きさは「我慢できる電流の量」

接点というのは、要するに金属どうしがぶつかって電気を通す場所である。そしてその大きさは、そのまま「どれだけの電流に耐えられるか」に直結する。

豆電球を点けるスイッチと、部屋の壁にある照明スイッチを思い浮かべてほしい。同じ「スイッチ」でも、中身の金属の厚みはまるで違う。φ6mm という銀接点は、電鍵としては明らかに壁スイッチ側の発想なのだ。

「発光信号用にも使えた」というのも、同じ理由で腑に落ちる。ランプを直接点滅させるには、それなりの電流を通し、そして切らなければならないからだ。

「KEY端子をON/OFFするだけ」ではない時代

現代の電鍵は、トランシーバーの KEY 端子を短絡するだけの、いわば「信号のスイッチ」である。流れる電流はごくわずかで、接点はほとんど摩耗しない。

だが真空管送信機を直接キーイングしていた時代には、接点そのものに相応の電気的能力が要求された。押した瞬間に本当に電流が流れ、離した瞬間に本当に切れる。HK-1Z は「本当に電流を切る電鍵」なのである。φ6mm という巨大な銀接点は、その時代の名残と考えると非常に納得できる。

4. 台座を見れば、年代が推定できる

















【HK-1Z の台座構造】 
天然大理石の板を、黒い下部ベースが受け止める二層構造。


台座は天然大理石+黒色下部ベースという堂々たる構成。この二層構造がまた良くて、白い石と黒い縁のコントラストだけで、机の上の格が一段上がる。

そして面白いのが、製造時期によって下部ベースの材質が異なるという点だ。CQ出版資料によれば、次のような違いが確認されている。

時期 下部ベース
前期 黒色モールド台
後期 黒色ABS樹脂台

つまり中古市場で HK-1Z を見比べる場合、「大理石の下が何でできているか」が、年代を推定する一つの手掛かりになる。これはコレクター的にはかなり重要なポイントだと思う。

当局の個体はどうか。
側面の型の合わせ目、台座を叩いたときの音、質感などから黒色ABS樹脂台の後期型と判断した。

5. おわりに

HK-1Z を手に入れて分かったのは、この電鍵が「装飾のために重いのではなく、仕事のために重かった」ということだ。大理石は打鍵の反力を受け止めるため、φ6mm の銀接点は本物の電流を切るため。どちらも、飾りではない。

電鍵は道具であると同時に、その時代の送信機がどんなものだったかを語る証人でもある。半世紀前の設計思想が、今も机の上でカチカチと音を立てている。これがこの趣味の、いちばん贅沢なところだと思う。

次は実際に打鍵した感触と、簡単な整備の記録を書く予定。

[主な参考資料]
・CQ出版社『モールス・キー コレクション』
・Radiomuseum.org(Dentsu Seiki/Hi-Mound の項)
・海外の電鍵史資料(Dentsu Seiki & Hi-Mound の沿革)

73 de JI1ALP

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